チョークチェーンとは、「チョーク=窒息・息苦しくさせる」「チェーン=鎖」と意味する通り、犬が従わない場合に強く引き、首を絞めて嫌悪刺激を与える道具のことです。
「うちのコ引っ張りが強くて‥」
とペットショップや訓練士さんに相談すると
「これで引っ張らなくなりますよ~」
と簡単に勧められる首輪のひとつで、しかし正しい使い方までは教わらないため、残念ながらただ犬に不快感を与えるだけの、そして肝心の“引っ張り癖”も改善するケースがほとんど見られないアイテムです。
チョーク・チェーンの正しい装着方法
画像Aの左手指を犬の鼻先としたとき、チェーンを通している輪の位置に注目ください。
Aは輪っか部分が上にあるのに対し、Bは下の方に輪っかがきています。
これをそれぞれリードをギュッと引っ張ってまた緩めると、Aが締まったままなのに対し(A’)、Bは首輪部分がダランと緩みます(B’)。
チョークチェーンは、一時的に犬の首を絞めて刺激を与えるためのものですから、引っ張るのをやめてリードが緩んだ状態のときには、首輪も緩んで苦しみから解放されていなければいけません。つまり、正しい装着の仕方はBです。
輪っかの向きを間違って装着すると危険!
これを間違えると、犬が引っ張ってどんどん首が締まり、しかし締まったまま戻ることもなく、ゼイゼイと酸素が行き渡らずチアノーゼ(血液中の酸素不足で舌や唇が青紫色になる症状)を起こし、そのまま苦しくてパタリと倒れてしまうこともあります。
また上の例は、画像のように犬を人間の左側につけた場合に限ります。
例え正しくBのように装着しても、犬が散歩中に人間の右側を歩けば、輪っかと持ち手の関係はAのようになってしまいますので注意が必要です。
チョーク・チェーンの目的とは?
そしてそもそも、この道具は引っ張らせた状態で締めっぱなしで歩くものではなく、犬が引っ張った瞬間にチョーキング、ジャーク、ホップなど呼び方は色々ですが、緩んだ状態からガッと勢いよく引いてショック(痛み)を与えるものです。
当然、犬はその刹那、ギュンッと首が締められ訳も分からず嫌な思いをしますので、その行動をやめる、というよりは、痛みのショックで継続できなくなります。これを子犬の頃に、それこそ犬の体がパーンと後ろに吹っ飛ぶほどの勢いで、体に刷り込ませる訓練もあります。
“引っ張り”が改善できない理由
さて、これが人道的といえるかどうか…はさておき、私たちは経験上、多くの飼主さんが“チョークチェーンを使用しても引っ張りが直らない”と困っていることを知っています。
引きの強さが「普通の首輪よりはマシかな…?」と思う程度で、結局はお散歩中ずるずると引っ張られてしまいます。
それもそのはず、緩めた状態から瞬間的に引かなければ、多少苦しくとも犬は普通の首輪同様引っ張り続けることができ、それに人間がついてくれば「イイコト」が起きている(行きたいところに行ける)ため、望んだ効果は生まれません。また犬は『引っ張るから苦しいんだ』とは理解しませんので、逆に苦しさから逃れようと余計に引っ張り、さらに悪循環に陥ることもあります。
エスカレートしていくチョークチェーン
私たち人間は、できるだけ楽して最大限の効果を得ようとする性質があります。もちろん、その発想が文明を発展させてきたと言えるかもしれませんが、チョークチェーンよりもスパイクチョークチェーン(鋭利なスパイクを皮膚に食いこませる)、プレート付きチョークチェーン(プレート部分が喉をさらに圧迫させる)といったように、より楽な力で“痛み”を特化させるアイテムの使用については、一度立ち止まってよく考えてみる必要があるのではないでしょうか。
もちろん、それらを用いることで実際に力の強い大型犬や、女性でも犬の引っ張りに対抗する手段、また訓練の一環として、一定の効果を上げてきたことも事実です。拾い食いや交通事故、犬同士のケンカや飛び付きなど、回避できるリスクが増えたといった点でも同様です。しかし、これらは犬に“嫌悪刺激”を与えなくても、適切なしつけでいくらでもコントロールすることができるものです。
そして嫌悪刺激のみで犬の行動を矯正しようとする場合には、当然それ相応のリスクも生まれます。
チョークチェーンの弊害
チョークチェーンを勧める訓練士さんの中には、「犬の首は丈夫だから」「適切な方向にショックを与えれば不快感を与えない」「ショックを与えた後、それ以上に褒めてやるから問題ない」という方もいらっしゃいます。なるほど、それはそれで説得力があるようにも思えますが、果たして本当にそうでしょうか?
犬の首には、繊細な神経がいくつも通っています。首の頸動脈にプレッシャーをかけると、眼球の圧力が上がって目の奥の神経(網膜神経筋細胞)が傷つき、緑内障のリスクが高まることが証明されています。チェーンが当たる部分の毛が抜け皮膚に外傷を負ったり、何より視覚神経の継続的な損傷は眼痛や頭痛を引き起こし、失明のリスクもあるのです。
褒めてしつけるトレーニングは最も推奨される方法ですが、だからといってメリハリをつけるために「体罰」や「暴力」を人間側が一方的に駆使していいという道理にはなりません。飴と鞭が通用するのは、相手の気持ちや、なぜ叱られるのかを論理的に理解できる人間だからこそです。ネガティブな振り幅をつける時点で、上記のようなリスクは必ず発生します。
このように、獣医学的な見地からも犬の健康被害を問題視され、人道的な見地からも最新の動物行動学を学ぶ世界中のトレーナーたちに疑問視されています。例えばAPDT(英国ペットドッグトレーナーズ協会)において「チョーク・チェーンの使用禁止」を宣誓されるなど、ある種時代遅れの道具ともいえます。
またプロの訓練士さんレベルで、“適切なタイミング”“適切な強さ”“一定のルール”で行うには、相当な技術が必要です。いえ例え“それ”ができたとしても、そうして大人しくピタッと隣を歩く犬は、本当に幸せといえるでしょうか?それは飼主さんが好きで、飼主さんと一緒に歩くのが楽しいから、ではなく、単に「痛い思いをしたくない」という恐怖、嫌悪刺激に対する無気力さの表れなのかもしれません。
こんな例もあります。とある紀州犬は、パピーの頃からずっとチョークチェーンでお散歩し、何かあるたび常に痛く苦しい“嫌な思い”をさせられてきました。11歳のとき、とうとうその犬は飼い主を噛み、50針以上縫う大けがを負わせてしまったのです。また別の犬では、お散歩嫌いになり、玄関から一歩も外に出ようとしなくなりました。チェーンの音を聞くだけで逃げていく始末です。
きっと飼い主さんたちも、決して犬を「懲らしめてやろう」などとは思っておらず、犬の行動を直すための「正しいしつけ」と信じて使ってきたことでしょう。しかしこれが「嫌悪刺激・罰を与える」ことの弊害なのです。ネガティブな刺激は、犬に「逃避」「攻撃」「無気力」などのリスクを与える危険性がありますので、十分注意しましょう。
後書き
ペットシッターSOSでは、基本的には飼い主様の普段通りの方法でお世話しますが、もしお世話中に「これは危険」と判断した場合には、誠意を持ってお話しさせていただき、リスク回避のためシッティング中だけでも他の道具(ハーフチョーク/プレミアムカラー/ハーネスなど)に変更させていただくなど対応致しております。
道具を用いて“罰“で犬を引っ張っていくのではなく、共に散歩を楽しむ“仲間”としてフェアに楽しく、「犬の気持ちと行動」をリードしていきたいですね。
by 倉西