私たちは一日数回、歯を磨きますね。
歯は食事(動物にとっては植物や獲物)をとる上で欠かせない、とても大切なものです。
また、虫歯の痛さと敗者の恐怖…それが分かっているから、私たち「人間」はエチケットの意味も込めて、毎日歯を磨きます。
しかし、動物はどうでしょうか?
動物の『歯』と食性の関係
と、その前に「歯」と動物の食性について
動物の食性は歯で決まるといわれるくらい、たとえば犬や猫などの肉食動物(犬は雑食性もある)が肉をさいたり骨を砕くため鋭く尖った歯を持つのに対し、草食動物は草をすりつぶすため臼のような平らな歯をしています。
肉も野菜も食べる雑食性の私たち「人間」を見てみると、全部で32本あるうちの20本(62.5%)が穀物や豆をすりつぶす臼歯で、野菜や果物を噛む門歯が8本(25%)、肉や魚を噛み切る犬歯が4本(12.5%)です。
つまり歯が“その動物の主とする食物を効率的に摂るためにある”と考えるのであれば、『穀物(ごはんや豆類)62.5%、野菜25%、肉・魚12.5%』の割合で食べるのが人間の体に最も適している、ということになります。
とはいえ食文化の違いなどもあり、古来から米を主食としてきた日本人(農耕民族)は、欧米人(狩猟民族)に比べても腸が長く、ゆっくりと時間をかけて吸収するという性質があります。 そのため食の欧米化が進むと、高カロリー低繊維質の食物を穀物同様に長い腸で栄養吸収するため、肥満や動脈硬化など様々な問題の原因にもなってしまうのです。
やはり日本人には、近年世界でも“ヘルシーフード”として注目されている『和食』が一番合っているのかもしれませんね。
と、そんな余談はさておき、「動物の歯磨き」について。
堅い草木をかじりとる草食動物しかり、鋭い牙が最大の武器となる肉食獣しかり、“歯を失うこと”=“死”に直結する野生動物こそ、人間以上に歯のメンテナンスが必要のような気もします。
しかし、チンパンジーが草の茎端を爪楊枝のように口でしがんでみたり、カバが大きく口を開けて歯に詰まった食べ残しを鳥に掃除させるなど一部の動物以外、基本的に動物は食べたら食べっぱなし、歯磨きなどしないのが普通です。
にもかかわらず、野性の世界では虫歯はもちろん、歯周病もほとんどないといわれています。なぜでしょうか?
虫歯の原因と歴史
虫歯の原因は、口内の細菌が固まって歯垢(プラーク)となり、歯垢中の細菌が糖分から酸を産出して歯を溶かすことから始まります。しかし野生動物は基本的に歯垢のもとになるモノを食べないため、虫歯も歯周病もありません。
木の実や獣の肉を自分の歯でひきちぎり生のまま食べることで、咬み応えがあり繊維成分も多いため“食べること=歯磨き効果”につながっているようです。
これは人にもいえることで、虫歯は調理や調味料などが発達した食習慣によって蔓延したといわれ、文明からかけ離れた部族では1万本に1本しか虫歯がなかったり、日本でも外国から砂糖が入ってくるまではほとんど虫歯が無かったという文献もあります。
では、そんな人間に飼われているペットたちはどうでしょうか?
ペットの虫歯
形は違えど、犬や猫の歯の構造や周りの組織は、人間と同じです。
だからというわけではありませんが、家庭で飼われている犬猫の実に8割が何らかの歯のトラブルを抱えているといわれています。
ただし犬や猫が人間のような「虫歯」になることは、非常に稀です。
ペットの口内は、虫歯菌の繁殖を抑えるアルカリ性(人間は弱酸性)で、また人のように唾液中にアミラーゼ(デンプンを糖に分解する酵素)を持たないため、口の中に糖がとどまりにくく、虫歯菌が糖から酸を産出して歯を溶かす−いわゆる“虫歯”のような状態になることは、ほとんどありません。
大抵が唾液と食べカスなどが混じった歯垢が付着することで起こる歯周病に悩まされています。
ペットの歯周病
歯周病は口臭の原因だけでなく、放っておくと歯がぐらつき歯茎から出血する歯槽膿漏、また歯の細菌が血液に流され肝臓や腎臓炎を起こす原因になるなど、より深刻な問題にもつながります。
歯周病の原因は、歯の表面や歯肉の間(歯肉ポケット)に食べかすや唾液中の成分が固まり、細菌が繁殖したもの。もともと白かった歯が根元から次第に黄色→茶色っぽく変色し、ピンク色だった歯肉が赤く腫れだします。
まだそれほど目立たない初期段階での歯茎表面の炎症を歯肉炎といい、これをそのまま放っておくと歯垢が歯の根元や歯茎の奥にまで入り込み、さらにひどい歯周炎と呼ばれる状態になります。
歯周病とはそれらの総称で、免疫力の高い元気な頃なら平気かもしれませんが、老犬・老猫になってくると症状が悪化する可能性も高く、炎症の毒素で口臭がきつくなるのみならず、歯がぐらぐらになって抜け落ちる、さらには細菌が血液に乗って他の臓器(心臓、肺、肝臓など)に移り、全身の内臓疾患にまで発展しかねません。
何より歯に痛みがあれば、痛みに対するストレスや、食欲があっても食べられないなど、健康状態にも直結するでしょう。
なぜ野生には稀な歯のトラブルがペットには多いのか。そこにはフードの問題が大きく関係していました。
ペットフードと虫歯の関係
食べやすく加工されたペットフードに、たまにもらえる人間食。
歯の機能を十分に発揮することが野生に比べて極端に少なくなったペットたちは、代わりに歯垢をためやすい口内環境を作ってしまいました。
そのため、歯垢をためない健康な歯を維持するためには、人間同様ペットにも「歯磨き」が欠かせません。
しかし実際は、面倒・嫌がるから・咬まれて危険、などの理由で遠ざかっている方もたくさんいます。
ある“歯磨きアンケート”によると、「愛犬の歯磨きを定期的に行っている」と回答したのは、「あまり行っていない」と答えた42.2%を下回る31.6%と少なく、「全く行ってない」の回答も入れると、実に7割弱の飼主さんが歯磨きしていないことになります。ちなみに動物病院を対象とした同アンケートでは、8割以上の獣医さんが「理想的な歯磨きのペースは毎日」と回答していることからも、理想と現実には大きなギャップがあることがうかがえます。
歯周病になりやすい種類
犬の場合、一般的に歯周病になりやすいのは、大型犬より小型犬です。
歯が大きく歯並びに余裕のある大型犬に比べ、狭いスペースに詰まり気味に生えた小型犬の歯は、どうしても食べカスを残してしまいやすいのです。
また、口内を清浄し雑菌の繁殖を抑える効果もある唾液の量が、大型犬に比べて少ないということも原因として挙げられます。中でもプードルやマルチーズ、ヨーキーやダックスなど口吻の長い犬種は、パグやシーズーなどの短吻種に比べても唾液量が少なく、歯並びの関係で歯垢が特につきやすいとされています。
大型犬の場合は顎の力も強いため、より硬いものを好んで噛む習慣が、歯や歯茎に良い影響を与えているということもあるでしょう。
同様に口や顎が小さく歯が密集して生えている猫も、歯垢がたまりやすい特徴があります。
まとめ
- 野生動物は加工食品を食べるペットと違って、天然のものを生でよく噛んで食べるため、食べること自体が歯磨き効果を生み、虫歯にも歯周病にもならない。
- 人間とペットは口内のpH(ペーハー)が異なる。ペットは口の中に虫歯の原因となる糖が留まりにくく虫歯にはならないが、食べカスが混じった歯垢が付着することで歯周病になりやすい。
- 食べやすく加工されたペットフードや人間食が、歯垢をためやすいペットの口内環境を作ってしまった原因のひとつでもある。
- 約7割の飼主さんが、ペットの歯磨きを習慣化させていない。
- 一般的に、口内が大きい大型犬より、歯が密集している小型犬の方が歯周病になりやすい。
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