犬の言語能力

飼主さんがたくさんペットに話しかけるように、ペットシッターも何かとペットに話しかけてしまいます。目的が「お世話」ですので、普段飼主さんがお散歩やごはん、また遊びのときに声をかけるように、いつものコマンドがあればそれを、同じようにシッターもたくさん語りかけます。

そういった意味では、数あるペットの職業の中でも、私たちほどペットに話しかける仕事はないかもしれません。
語りかけて、犬が顔を斜めに「？」ポーズをするのは、角度を変えて何て言っているのかもっとよく聞こうとしているからなんだとか。かわいいですね。

では、犬の言語能力とはどれほどのものなのでしょうか？

「オスワリ」「マテ」などのしつけは、犬を飼ったことがある人の多くが、まず最初に教える「言葉」のひとつではないでしょうか？
犬から見れば全くの異国語ですが、彼らは実に賢くそれらを覚えてくれます。
しかしこれは、我々の発する“言語”を理解しているからでしょうか？

「理解」の定義にもよりますが、ペットシッターSOSが併設するペットシッタースクールで、脳科学の見地から犬の行動学を教える家庭犬インストラクターの西川文二先生は、自身の著書の中で以下のように説明しています。

『人間は脳の「聴覚野」という部分で音として言葉を聞き取り、「ウェルニッケ野（感覚性言語野）」でその音の意味を理解し、さらに大脳新皮質の多くの部分（特に「前頭連合野」）を使って考えたり、想像したり、感情移入したりしています。しかし犬も含めた人間以外の動物たちの脳は、特に大脳新皮質が人間ほど発達していません。すなわち、音としての言葉は聞き取ることができても、その意味を高度に理解し、想像したり、自分の考えを構築することは、脳的にできないのです』

難しい話ですが、脳の構造上できないと言われればぐうの音も出ませんね。
しかし西川先生はこうも言います。

『脳のメカニズムを考えれば、言語をあやつる、道具を作り出すといった人間ならではの脳の機能（高次機能）を除くと、記憶や情動に大きく関わる「大脳辺縁系」ほか、共通部分はたくさんあります。その共通部分から生み出される犬の心理や学習メカニズムは、私たち人間ともさほど変わりません。ゆえに、もしあなたが犬のことを深く理解し、犬との意思疎通を望み、犬との生活を心から楽しみたいのであれば、基本的な情動や学習メカニズムはおおいに擬人化すべし、なのです』

つまり犬は“言葉”を合図（シグナル）として聞き分けられるようになっても、その言葉の持つ本来の意味や本質は理解できない−これは当然といえば当然ですが、ただそれらがもたらす「快」「不快」といった情動や、「嬉しい」「好き」といった感情は、犬も我々と同じように感じ、それは当然コミュニケーションや意思疎通に繋がっていくということですね。

世界でも権威のあるドイツのマックスプランク研究所で行われた実験において、ボーダーコリーが10年間で200を超える言葉を覚えたという研究報告があります。つまりこれは、200のシグナルを聞き分けられるということになりますが、この犬は初めて名前を聞かされたものを持ってくるよう命じられると、知っている多くのものの中から、見ず知らずのものを選んで持ってきた（消去法）といいます。
つまり、知っているものの中には無いものだから、これがそれにあたるんじゃないか？と推理したと考えられるのです。何て賢い犬でしょうか（2017年には、英心理学者ジョン・Ｗ・ピリー氏が飼っている同じくボーダー・コリーのチェイサーが、同様の「消去法」トレーニングで3年間で1022の単語を習得したという記事もあり）。

人間の言葉をどこまで理解しているのか？
それこそ、犬に聞いて見なければ分からないことかもしれませんが、びっくりするほど言葉が通じているなと思う瞬間は、犬を飼っている人の多くが実際に体験されているのではないでしょうか。

そうです。大切なのは言語を超える信頼関係です。
言葉ひとつで崩壊してしまうこともある人間関係に比べれば、犬は何てけなげに、そして反論もせず実直に、我々の言葉に耳を傾けてくれることでしょう。
ペットシッターＳＯＳでは、これからもたくさんのワンちゃんたちと語らい、飼主様ともども信頼関係を築いていきたい思います。