ある視覚障害者は言います。「目的地に着くまでの苦労を半分に、目的地に着いたときの喜びを2倍にしてくれるのが、私のパートナー(盲導犬)です」と。
目の不自由な方の目となり、安全に歩行をサポートする盲導犬。その誕生は、軍用犬がケガを負った軍人のサポートをしたことがきっかけです。
第一次世界大戦中、失明した軍人の歩行を上手に誘導する犬の姿を見て、専用に訓練されるようになりました。
その後、組織的に育成が行われるようになり、ドイツを中心にヨーロッパ各地に広がっていきました。
しかし、古代の壁画からも、盲人が犬に導かれて歩く姿が発見されており、はるか昔から犬は障害を持った人の支えとなってきたことが分かります。
世界で活躍する盲導犬〜日本で数は足りてるの?
現在、国内で活躍する盲導犬の数は約1,000頭と、アメリカ(8,000頭)、イギリス(5,000頭)に次ぐ3番目のランク(ドイツ・フランス・オーストラリアと並ぶ)にありますが、上位諸国との人口比率で見てみると、日本はまだまだ深刻な盲導犬不足と言わざるを得ません。
アンケートによると、盲導犬の使用を「今すぐ希望する」または「将来希望する」と答えた人の数は、7,800人以上にも上るそうです。
盲導犬は基本的に無償で貸与されるものですが、にもかかわらず、町で彼らの活躍を見かける機会は、そう多くありません。
日本で盲導犬が足りない理由
費用(1頭当たり約300万円。そのほとんどが寄付金でまかなわれる)と期間(半年〜1年の訓練)がかかるという以前に、“繁殖犬の数が少ない”という問題があります。
盲導犬の候補となるオス犬は生後半年で去勢され、メスは生後8〜11ヵ月に避妊手術を受けるため、例え優秀な盲導犬だと分かっても、その犬を繁殖に活かすことができないのです。
一方、盲導犬の先進国であるアメリカやイギリスでは、盲導犬に適しているラブラドール(※高い知性と協調性があり、人を誘導する力、サイズ的にもちょうど良く、丸い目や垂れた耳といった温和そうな外見が、町を歩く人や子供にも受け入れられやすい特徴がある)の原産地ということもあり、数多くの繁殖犬を抱えています。
そして数少ない繁殖犬から交配し訓練しても、適性判断によって約7割の犬は落とされてしまいますので、日本では年間50頭を輩出するのがやっとなのです。
ちなみに、訓練の結果「適正無し」と判断された犬(リジェクト犬)は、障害物を避けるのは苦手でも、例えばモノを拾ったり持ってくるのが得意なら、手足の不自由な人の介助犬。または盲導犬の仕事を紹介するPR犬、セラピー犬や家庭犬といったように、それぞれの性質にあった道に進んでいきます。
盲導犬が活躍しやすい社会づくりを
しかし、たとえ盲導犬の頭数が満たされたとしても、それを受け入れる社会の体制や人々の理解が無ければ、意味がありません。これまでは、お店などの施設において「盲導犬の入店を拒まないようにしましょう」という努力義務(違反しても罰則が無い)が敷かれていましたが、2008年からは一部で完全義務化につながっています。
『身体障害者補助犬法』とは、このように障害者の社会進出を守るものでありますが、レストランや飛行機などにも適用されるため、同時に抜け毛やニオイといった衛生面の配慮については、ユーザー側の義務としてしっかり明記されています。
盲導犬は“どうやって”見ているか
盲導犬は信号機の前で止まりますが、彼らは色を判断しているわけではありません。最近の研究によると、犬は紫、青、黄色の3色は見分けられるといわれていますが、赤や緑の識別はほとんどできておらず、信号の色(進めるかどうかのシグナル)を音や周りの感覚で判断するのはあくまで人間で、犬は歩道と車道のわずかな段差やゼブラゾーン(横断歩道)、ボツボツが並ぶ誘導ブロックなどの情報から、いったん止まるよう訓練されているのです。
「犬の視力」といった意味では、信号機の識別訓練が行えない(不確かで意味を成さない)ほど、人間に比べ『色』を識別する能力に欠けているということになります。
それもそのはず、私たち人間が赤・青・緑の三原色を感受できる細胞(錐体細胞)を網膜内に持っているのに対し、犬や猫は赤を識別する細胞がほとんど欠如した2色識別性(錐体細胞が2種類)なため、そもそも人間とは見えている色の世界が違うのです。青や緑は我々とほぼ同じように認識していて、赤っぽいものだけがどうやら灰色に見えている、と考えられています。
もしも交差点で盲導犬を連れている人を見かけたなら、「赤ですよ」「青になりました」と一声かけてあげられるといいですね。
盲導犬の諸情報
盲導犬への指示が全て英語なのは、方言や男女言葉の違いをなくしスムーズに指示を伝えるためです。
褒めることを主導に、飼主と一緒にいることが何よりの喜びですので、「盲導犬が短命」というのは全くの嘘。逆に長生きする犬のほうが多いくらいです。
食事や排泄は、ユーザーが責任をもって行い、毎日のブラッシング、月1〜2回のシャンプーも欠かしません。
盲導犬は人のために常に神経を張り巡らせているのではなく、家で遊んでいるときなどは、普通の犬たちと同じリラックス状態で楽しんでいます。彼らのオン・オフのスイッチは、ハーネスの着脱。サラリーマンのネクタイのように、仕事モードに切り替わります。
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