ペットシッターのお仕事でも、とても重要な役割を担う給餌のお世話。 “医食同源”なんて言葉があるように、良質なフードを“食べる”ことは、健康維持の基本中の基本ですね。
特に飼主さん不在の場合は、シッターの存在意義の集約といっていいほど、フードのお世話はとても大切です。
多くのお客様が愛犬・愛猫の食事にペットフードを用い、それぞれ適切な量やタイミング、またトッピングやご家庭ごとの与え方、号令などをもって給餌しています。
ペットシッターSOSでも、お客様との綿密なお打合せの上、食べ慣れたフードを普段通りの方法で与え、食欲や食い付きはどうか、食べ残しが合った場合はその量など、つぶさに報告書にまとめ(または随時メールやLINE等で連絡し)ています。
さて、そんなペットたちの主食「ペットフード」について、まとめてみました。
ペットフードの誕生と歴史
犬と人間の共同生活は、今から1万5千年前からとも2万年前からとも言われていますが(猫は約5千年前)、それに比べるとペットフードの歴史は意外に浅く、1860年にイギリスで初めて加工ドッグフードが販売されてから、まだ150年ほどの歳月しか経っていません。とはいえ、日本ではまだ徳川幕府の時代ですから、以前の膨大な歴史は置いておいても、ペットフードはそれだけの期間をかけて、安全性や栄養バランスなどの改良を遂げてきたといえます。
しかし、ここで問題なのは、必ずしも「ペットたちの意見ではない」ということです。自然のもの、加工されたもの、様々なものから動物たちが自ら、自分の体と健康にあったものを本能的に選んできた結果ではなく、人間社会の中で、決して『経済』の歯車から逸脱することなく、ペットフードも商業的に作られてきた事実は否定できません。しかし、それはフードに限らず、そもそも犬や猫の誕生からして人間が関わっているわけですから、決して否定的ではありませんが、安価フードにおける不明瞭な原料なども踏まえ、手放しで「現代のペットフードは良質で安全」と思われないよう注意することも必要です。
ちなみに、ドッグフード誕生のきっかけとなったのは、イギリスの船乗りたちが常食としていたビスケット−長い航海で保存性を効かせるため、“リバプールの敷き瓦”と呼ばれるほど硬く、とても美味しいといえる代物ではなかった−で、航海後に波止場に大量に破棄されたそれらを、犬たちが強靭な顎で美味しそうに食べていたことからヒントを得て、1860年に初めて犬専用のフード「犬用ビスケット」が商品化されました。
もしもこのビスケットが、子供でもかじれるくらいの硬さで、船員たちが子供や孫たちに持って帰っていたなら、ドッグフードの誕生や形状も、今とはまた変わっていたのかもしれませんね。そんな名残から、アメリカではぐうたらで食べてばかりの犬のことを「biscuit eater」と言ったりします。
ペットフードができる前は、何を食べていたの?
現在のような「ペットフード」が誕生する前、ペットたちの食事事情はどうだったのでしょうか? それこそ飼われていた家庭環境により様々で、人間が食べ残した残飯や、当時は放し飼いも多かったためゴミをあさったり、小動物を狩って食べていました。考えようによっては、自分の意思で食べ物を探し選び、骨や皮、内臓に残る内容物まで丸ごと平らげていたので、食事の質といった意味では、決して悪くなかったのかもしれません。しかし当然ながら、人間の食べ物さえ十分ではなかった時代、そう毎日餌にありつけるとは限らず、長生きできたのは裕福な家庭に飼われたほんの一部のペットだけだったといいます。 さらに時代をさかのぼって見てみましょう。 鎌倉時代−北条時宗の孫にして鎌倉幕府第14代執権北条高時は、鎌倉幕府を滅亡に追い込んだと言われるほど酒や田楽、闘犬遊びに明け暮れたならず者。年貢として諸国から強い犬や珍しい犬を取り寄せては、庶民が食べたことの無いような高級な肉や魚を与えて飼っていました。ちなみに犬をつなぐ紐には金銀をちりばめていたそうです。 戦国時代−ポルトガル船で運ばれてきた犬達は唐犬や南蛮犬と呼ばれ、狩猟犬として重宝されたこれらの洋犬は、大名の間で流行していました。裕福な家庭でも大切に飼育されていたため、こうした特別待遇の犬達には、餌として当時は貴重な豚肉が与えられていました。 江戸時代−世界最初の動愛法とも言える徳川綱吉が発令した「生類憐みの令」。綱吉自身が戌年(いぬどし)ということもあり、特に犬に関しては行き過ぎた過保護ぶりで、あきれた条文や罰則が横行しました。犬達は白米や魚をたっぷり与えられ、怪我でもしたら一大事と狭い小屋に閉じ込められて寝てばかり。町の野良犬も店先の食べ物を取り放題とまさに「お犬様」状態です。そのため肥満犬が満ちあふれ、おかげで当時の獣医師たちはちょっとした小金持ちになれたそうです。
ペットフードの変遷
動物には人間の残飯を与えるのが“常識”だった時代に、この世界初のドッグフードの誕生は、それは大きな反響を生みました。
犬を飼うことがステータスとなる富裕層の人たちが、この新しいフードに「あらやだ、おしゃれでモダン」と飛び付く一方、犬の専用食なんて贅沢だと声を上げる人や、犬の健康に良くないと主張する専門家も出てきました。 「ドッグフードは消化器官への詰まりや消化不良、皮膚病の原因となる」「ドッグフードだけで犬を養うことは犬の体にとって究極のダイエットを強いることと同じ、慢性的な空腹感を生む」などの訴えに対し、メーカー側は「犬に生肉を与えると凶暴性が増す」「食卓の残飯は犬の消化能力を下げる」と反論します。さらにメーカー側は、この頃発見されたばかりの「ビタミン」を添加することで、ドッグフードは『犬の健康管理責任の一部』とPRし、販売を拡大していくことに成功しました。もっと効率よく、安価に製造できるよう現在の粒状のドライドッグフードを開発するなど、その製造技術を高めていったのもこの頃です。 やがてその技術はアメリカに渡り、1930年頃には、食べやすさや犬の嗜好性を重視した“缶詰タイプ”のフードが誕生します。 急速にシェアを拡げていった要因には、人間用の工程で余った、もしくは破棄するような安価な材料を業者から仕入れられる、また業者側も本来なら捨てるのにお金がかかる“産業廃棄物”を利益に変えられる、そして何より長く保存できお皿によそうだけという手軽さが消費者に受けたなどの事実が挙げられるでしょう。そのため多くの場合、ペットフード工場のそばには、たいてい大きな肉処理工場や魚処理場がありました。
日本でのペットフード事情
一方日本では、ちょうどその頃から15年戦争(1931-1945)といわれる混沌とした戦乱期に突入し、ペットのエサどころではありません。人間の食べるものさえ不足していた時代ですので、ペットのご飯など二の次、三の次だったことでしょう。アメリカ、ヨーロッパにおいても状況はさほど変わらず、そういった時代背景がまた、「ペット用に安価で保存の利くフードの安定供給」といった、ペットフードの必要性と確立につながっていったのかもしれません。 戦後アメリカの軍用犬と共に、ようやく日本にもドッグフードが入ってきますが、この時はまだ「動物用医薬品」扱いとして、一部の外国人向け小売店に少量輸入されていた程度でした。 その後経済の発展と共に、日本でも少しずつペットを飼う人たちが増え、世界初のペットフードから遅れること100年、1960年にようやく初の国産ブランドのドッグフードが誕生したのです。
もちろん、敗戦のどん底からこの国の最繁栄期を築き上げた時代であっても、犬専用のフードがすんなり受け入れられたわけではありません。残飯を与えておけば十分、ごはんに味噌汁をかけた、俗に言う“猫まんま”なんて、ペットにとってご馳走中のご馳走という認識から、一部のセレブを除いて、ペットフードは庶民にはなかなか普及していきませんでした。 お犬様に高級なフードを買うくらいなら、人間様の米を買った方がマシだ、というのもごもっともな話です。皮肉なことに、ペットショップもホームセンターもないこの時代、国産ペットフードは人間の主食を扱う「米屋」で売られていました。昔ながらの店構えのお米屋さんに、犬が舌を出したドッグフードメーカーの看板が掲げてあったりするのは、そのためです。
しかし、折しも高度成長期。競うように生活にどんどんと新しいものが入ってくると、ペットにも「残りもの」じゃなく、犬専用のごはんを買ってあげようか、という風潮が生まれてきます。さらに昭和40年代になってテレビCMなどでも放映され出すと、徐々にドッグフードへと主流が切り替わっていきます。
そうした高度成長期の波に押され、少しずつペットを飼う人も増えていき、見た目受けするフード粒の凝った形状や色など、メーカーは様々なメディア戦略で“飼い主の購買意欲”に訴えかけていきます。 当然、『買う』のは人間ですから、飼い主が見て“美味しそう”と思える着色や、パッケージのデザインに主力が注がれることになります。これがもし人間の食べ物なら、例えば試食することもでき、自らの舌で選択することもできたでしょう。もちろん、今でも愛犬、愛猫に与えるフードはまず自分で食べて確かめてから、という人もいますが、しかし当時のペットフードは、まだまだ“新しい物”という存在で、その判断基準や精査された情報などもありませんでした。
さらなるペットフードの進化
さて、ペットフードの保存性、手軽さなどから、ペットには家庭の残飯ではなく、“ペットフードが当たり前”になってくると、市場競争はますます激化していきます。国内外のメーカーがこぞって新商品を出す中で、徐々に犬種別や成長期別、テイスト別など細分化された特徴を掲げるようになっていきました。さらにはペットの病気専用に成分構成された療法食まで手掛け、一般家庭の健康なペットのみならず、獣医のクリニックにまでマーケットは拡大していきます。
1980年代前半には、「プレミアム」や「スーパープレミアム」と銘打った商品も誕生し、保存料や原材料にもこだわった“高級感”を打ち出すことで、ちょうどその頃から“安全性”にもこだわりだした消費者の意向とも合致し、やや高値にも関わらず、それらはペットフード全体の約30%とシェアを伸ばしています。何を持ってプレミアムとするかの定義はメーカーによりまちまちですが、概ね蛋白素材に鶏肉などを使用し消化吸収が良く、アミノ酸バランスの優れた良質な原材料を使用していることが挙げられます。
そして1990年代には世論の圧力を受け、これまで疑問視されていた合成保存料を多くのメーカーで廃止し、その代用としてビタミンCやビタミンEを脂肪保存料として使い始めました。また2009年には『愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律』が施行されるなど、少しずつ研究や法整備が整っていき、現在に至ります。
ペットにいつまでも健康で長生きしてもらいたい、という試行錯誤から、ペットフードは誕生から現在に至るまでこのように進化してきました。
しかし、人間が食べるものさえ偽装される世の中ですから、直接被害を訴えられないペットのためにも、愛犬・愛猫のペットフードを選ぶ際は、これからも正しい選択をしていきたいですね。
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