犬の「拾い食い」に困っている飼い主さんも多いと思います。
何より怖いのが、食べてはいけないものを飲み込んでしまうケースですね。毒入りのフードを食べてしまうという悪意ある事件や事故も後を絶ちませんし、そうじゃなくても、犬にとっては中毒性の高い食べ物や、口内や臓器を傷つけてしまうような鋭利な付着物など、道端には危険なものがあふれています。
例え“害の無いもの”であっても、やはり飼い主さんにとって“得体の知れないもの”を食べさせてしまうのは、よろしくありません。
もちろん、ペットシッターSOSでは、日頃のお散歩方法や「拾い食い」の癖の有無、どんなものに興味を示し口に入れようとするか(またその際の飼い主さんの対応)、などをお打ち合わせで十分確認し、万が一でもお世話中に上のような事故があったら大変ですので、特に「拾い食い」には徹底した注意を払いお散歩させていただいております。
今回は、そんな多くの方が悩む「拾い食い」の直し方について、まとめてみました。
そもそも、なんで犬は「拾い食い」するの?
結論から言いますと、「しつけない限り、犬は『拾い食う』生き物」です。
道に落ちている得体の知れないものを食べるなんて‥というのは、グルメで衛生観念が備わった“人間側の常識”であり、そもそも動物界では元々「有り」な行為です。
食べ物を調理してお皿によそい、箸やフォークを用いて食べるのは人間ぐらいで、人間以外の全ての動物が「木の実」や「捕食動物」、または「地面にあるもの」を調理も盛り付けもせず、そのまま“もぎ取り”“捕え”“拾い”口に運んでいます。それが、本来のあるべき姿なのです。
ですから、伝わらないコミュニケーションでいくら「やめなさい!」「ダメって言ってるでしょ!」とリードを引っ張ったところで、犬には“邪魔が入った”ということが分かっても、根本的な行動の改善にはつながりません。それどころか、次はバレないように、もっと早く食べてやろう、と逆に犬の意地を引き出す悪循環にもなりかねないのです。
「なぜ拾い食いしてはいけないのか」を教えるには、人間の体裁(こんなことしちゃみっともない)や衛生に関する概念(汚い、食べたらお腹を壊すかもしれない)を犬に理解させなければなりませんが、そんな人間特有の倫理観や衛生観まで犬に教えるのは、極めて困難です。もし逆に、人なみにそれらが理解できてしまえば、犬はたちまち自分がお尻丸出しで歩いていることに恥ずかしくなり、ダッシュで家に引き返してしまうことでしょう。ですので、“なぜいけないか”ではなく、“どうしてほしいか”を教えていくアプローチが望ましいのです。
犬の行動学を理解しよう
いいこと(強化子) | 嫌なこと(罰子) | |
起きる(加える) | ①行動が増える(正の強化) | ②行動が減る(正の罰) |
なくなる(取り去る) | ③行動が減る(負の罰) | ④行動が増える(負の強化) |
<強化‥行動が増える 罰‥行動が減る> <強化子‥いいこと 罰子‥嫌なこと> ※「いいこと」が起きると、その行動は増えていく。「いいこと」がなくなると、その行動は減っていく。 ※「嫌なこと」が起きると、その行動は減っていく。「嫌なこと」が取り去られると、その行動は増えていく。
上表をご覧ください。犬の行動の基本は全て、その結果「いいこと」が起きたか(正の強化)、「嫌なこと」がなくなったか(負の強化)、で強化・維持されていきます(※逆に「いいこと」がなくなった(負の罰)、「嫌なこと」が起きた(正の罰)場合は、その犬の行動は弱化・減少していく)。
(例1) 飛びついたら撫でてくれた→「撫でられる(強化子)」ことが「得られる(正)」ので→飛びつく頻度が増える:正の強化(表①)
(例2) 取られそうになって唸ったら手が引っ込んだ→「取られる(罰子)」が「消失する(負)」ので→唸る頻度が増える:負の強化(表④)
拾い食いをして美味しい思い「=いいこと」を経験した犬は、また散歩中に何か落ちていないかと探し、さらにGETすることができれば、どんどんその行動が強化されていきます(正の強化 表①)。それに人間が気付き、「こら!ダメでしょ」と口をこじ開け無理やり取ろうとすると、犬にとって“奪われる”ことは「嫌なこと」ですから、今度はその「嫌なこと」を回避しようと、口を固く閉ざして唸ったり、取られる前に飲み込んでしまうようになります(負の強化 表④)。
では、「犬より早く落ちている物に気づき、口にさせないようにできればいい」ということになりますが、人間より地面に近く、嗅覚も優れた犬の一瞬の動きに、毎回完璧に阻止するというのもなかなか困難です。 「どんなに叱っても拾い食いしちゃうの」という飼い主さんの多くは、少なからず上のような経験をさせてしまい、叱っているつもりが(正の強化)と(負の強化)によって、一層「拾い食いする犬」の思考回路や行動パターンを形成してしまっていることがあるのです。
「落ちているものを勝手に口に入れない」という望ましい行動をとってもらいたければ、その行動を上表の要領で強化していけばよいのです。もちろん、“罰子をつかうことなく”です(罰の弊害←「犬を叱ってはいけない理由」参照)。
では、具体的なしつけ方法について見ていきましょう。
「拾い食い」を直すしつけ方 ステップ1
すると次第に、犬は「落ちているものはどうせ拾えない」→けど、「その代わり飼い主さんを見ると『いいこと』が起きるぞ」、と学習していきます。この「拾わない(注目・執着しない)」という行動に対して、徐々に「待て」「オフ」「leave it」などの特定の号令も加えていきましょう。
これが完璧にできるようになれば、次に難易度を上げていきます。
リードの固定を外して、拾おうと思えば拾える距離にフードを落とします。しかし、絶対に落ちているものは食べさせてはいけませんので、もし犬がそれに反応し食べそうになったら、足でフードを隠すなどして、物理的に防ぎます。
この環境でも拾わず、先ほどと同じように飼い主さんを注目したら、すぐに手からフードを与え褒めてあげます。
なにも難しいことはありませんね?
犬のしつけは“回数”です。これを毎日、それこそフードをたくさん使いますので、食事のタイミングで何十回と繰り返せば、まず100%床のものは拾わず、お伺いを立てるように飼い主さんを見る犬になるでしょう。
さあ、これで落ちているものは勝手に食べなくなった!と、「しつけ完了」とばかりに安心してお散歩に出るのは、しかしながら早計です。例えるなら「ルールブックをちょっと読んで素振りをしただけの素人が、プロ野球の打席に立ってヒットを要求されるようなもの」です。 まだほんの、基礎の基礎を習得したに過ぎません。 ということで、ステップ2に進む前に、もう少し犬の学習理論について見てみましょう。
「拾い食い」を直すしつけ方 ステップ2の前に
これまで、「拾い食い」に対しての一般的な反応ー「拾っては叱る(取りあげる)」ーでは、かえって犬の拾い食いが強化される恐れがある、というお話しをしてきましたね。
いやいや、私のリードさばきでむやみに拾わせたりしない、という飼主さんもいらっしゃるかもしれませんが、犬と地面の距離、犬にしか嗅げないニオイや見えないもの、また夕闇時の散歩など、落ちているものに執着がある犬の拾い食いをリードさばきだけで100%防ぐことは、まず不可能といっても過言ではありません。
もちろん、常にリードをピンと張って、終始地面に口がつかない状態なら出来なくもないでしょうが、ずっと首をつられた状態で満足にニオイ嗅ぎもできないお散歩では、犬もかわいそうですよね。
ですので、多くの方が普段はリードをたるませ、自由に歩かせておいて、拾い食いしそうな瞬間だけグイッと引っ張って制御しているのが一般的です。
しかし前述のように、この方法で100%防ぐことはできませんので、何回かに一回は「拾い食い」を成功させてしまうことになります。
そして、この“たまに成功する”という経験こそが、犬にとって余計にその行動を執着させ、強化させることにもつながっているのです。
これを間歇(かんけつ)強化といい、例えばトレーニングの世界でも、毎回ご褒美を与える連続強化より、2回に1回、3回に1回など、もらえるときもあればもらえないときもある、というシチュエーションを敢えて作ることで、犬は「次はもらえるかな?」「やった!」「次はどうだろう?」と熱中度が高まり、その行動の消去抵抗(覚えたことを忘れない)が高くなるという効果があります。
つまり、一般的な「拾い食い」の制御方法−食べそうになったらリードを引っ張って止めるーでは、「あ、邪魔された!」「よし食べられた!」「ッ!?もう少しだったのに」と、間歇強化と全く同じ現象が失敗と成功の狭間で起き、より犬の「拾い食い」に対する執着心を生む結果になっているのです。
一生懸命やめさせようとしているのに、逆に「拾い食い」の癖を強化させてしまっては、本末転倒ですね?
さあ、これらのことを踏まえて、「拾い食い」の直し方ステップ2に進みましょう。
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