犬に比べて、猫は一般的に『食へのこだわりが強い』とされていますね。
ペットシッターSOSでは、年間5,000件以上の猫のお世話件数がありますが、犬が一様にガツガツと美味しそうに平らげてくれるのに対し、猫のフードに対しての反応や食べ方は、まちまちです。
ペットシッターとしては、シッティング中のご飯のお世話のときに食べてくれれば、少なくとも「ご飯を食べられないほどの緊張状態」ではないことが分かり嬉しい限りですが、初めてのお世話でまだ慣れていない猫ちゃんの場合は、シッターの前では口をつけない子もたくさんいます。
二日目、三日目と、少しずつ警戒心がとれてくると、シッターが来るとすぐに出迎えてくれて、にゃあとご飯を催促してくれたりもします。
ちなみに、なかなか“これ”というペットフードが見つからず、いろいろ迷っては変更することを“フードジプシー”と言ったりしますが、インターネットでの「ペットフードに関する意識調査」によると、平均すると犬よりも猫の方がフードジプシーの割合が高いのだとか。
そんなグルメでシェフ泣かせな一面を持つ猫ですが、今回はその『猫の食性』について詳しく見ていきたいと思います。
猫の嗜好性の秘密
猫の嗜好性を測る上で一番大切なのは、フードの匂い‐“嗅覚”‐です。
次に大きさや形、舌触りや噛んだときの“触覚(食感)”で、最後にようやくフードそのものの味‐“味覚”‐がきます。
−え!?フードの”味”自体は二の次だったの?
そう思われたかもしれませんが、実はこれ、わたしたち人間にも同じようなことがいえるのです。
五感の中でも嗅覚と味覚は、それぞれ空気中の化学物質(嗅覚)と、液体中の化学物質(味覚)を感知する化学センサーで成り立っていて、この二つが動員されて総合的な『食べ物の味』を感じているのですが、その中で“味覚”は「全体の20%ほどしか関与していない」というのです。
風邪で鼻が詰まっているとき、食事の味がよく分からなくなるのもそのためで、鼻を完全につまみ嗅覚をシャットアウトした状態なら、リンゴとタマネギさえ味覚だけでは区別がつきづらいのだとか。
さて、それはさて置き、我々人間ならその経験から、例えば画面に映る料理が美味しそうに見えたり、また一緒に食事にいった相手の料理が決まって自分のより美味しそうに見え後悔したりと、とにかく色々なものに目移りしますね。
しかし肉食動物である猫は、基本的にたんぱく質(アミノ酸)の含有量の多い食べ物だけを好み、その中でも「これは食べても大丈夫。安全なもの」と判断したもののみ口にします。特に母親から与えられるものは絶対に安心という感覚があるため、その頑固な食へのこだわり、判断基準は、多くの場合子猫時代に養われます。
猫が決まったものしか食べない−長く食べ続けているものを本能的に選択し、フードを変えると食べなくなる−のも、そのためです。
猫は魚好き?魚ばかりを与えることのリスクとは
こうした性質から、猫に“飽きる”という概念はなく、病気じゃない限り急に小食になったり食べなくなるのは、季節や天候、運動量と鑑みて“気分が乗らないだけ”ということがいえます。
「フードに飽きちゃった?」と慌ててキャットフードを切り替えてしまうと、逆にその“変化”にストレスを感じてしまいますので要注意。
肉食の猫は、日本においてはどちらかというと“魚好き”なイメージがありますが、それはたまたま昔の日本人の食生活が肉より魚中心だったからで、海外では日本ほど“猫と魚の結びつき”はありません。海外版『サ○エさん』がもしあったなら、オープニングで追いかけていたのは、お魚ではなくマトンを咥えたドラ猫だったかもしれません。
日本の風習に猫が合わせて、少しずつ魚への馴染みが深まっていったといえます。そのため日本では魚系のフードが多くありますが、ペットフードのようにバランスよく栄養が配合されていれば問題ないものの、猫=魚のイメージだけでイワシやサンマなどの青魚を与え続けると、黄色脂肪症(腹・胸部の脂肪が酸化し痛みや熱をもつ硬いしこり)を起こしてしまう危険もあります。
また、慣れ親しんだフードだからといって、必ず食べてくれるわけではありません。食事をとりまく“環境”も大きく影響します。
前述のように、初めてペットシッターがお世話に伺ったときより、2回目、3回目の方が、猫も安心して食べてくれるようになることがあります。もちろん、フード自体は変えていませんので、それは猫にとって、シッターが“安心できる環境の一部”となったから、ということがいえます。
引越や部屋の模様換えで周りの環境が変わったり、トイレや食事場所などの配置が気に入らなければ“頑として食べなくなる”こともあるのが、デリケートでグルメな猫の食事情です。
嗜好に見る個性や野生時代の名残
さて、猫の好みの大半は“匂い”で、嗜好性の多くは“子供時代”に養い、魚好きは日本人の勝手なイメージで本来は“肉食”、食いつきは安心できる“環境”にも左右するということが分かりました。
では、『食べ方』はどうなのでしょうか?
猫それぞれの『食べ方』に見る個性や特徴、またそれら肉食動物の食性を活かした食欲増進方法について、見ていきたいと思います。
食事マナーや食べ方の作法は、人間でももっとも“親のしつけ”や“育ちの良し悪し”が判別されやすいところで、くちゃくちゃ音を立てたり肘をついての食事は、100年の恋も冷めるほど嫌悪の対象になったりしますね。
しかし動物には、そもそも“マナー”などといった概念はありません。本能も手伝い、親や群れから“狩り方”は教わっても、おそらく“食べ方”までは一挙手一投足教わることはないでしょう。手も足も何も、そもそも箸もフォークもない世界で、ただ獲物を食いちぎっては口の中に放り込む“生きるためだけの食事”ですから、そうそうパターンがあるわけでもありません。しかしそんな中でも、一気食いする傾向の高い犬とは違って、猫にはいくつかの食事パターンが見られます。
【少しずつ分けて食べる】
食事を出してもすぐに食べなかったり、ちょっと口をつけてはどこかに行き、また気が向いたら食べにくるという“ムラ食い”。もともと猫は犬と違って、単独で狩りをして、単独で食べる動物です。自分より大きな獲物を群れで連携しあって仕留める犬は、倒した獲物は“群れ全体のごちそう”なため、のんびりしていたら他の仲間に食べられてしまいます。また、次の獲物までかなり時間が空く“間決捕食者”でもあるため、一度の食事でドカ食いするのも犬の特徴です。
その点、猫は自分よりずっと小さな獲物を、その都度一日何回も狩りをして食べる“少量頻回採食者”です(一説には一日15回以上とも)。鳥や虫、動くものについつい反射的に手が出てしまうのも、そうした本能の現れ。そのため、“いつでも食べられる”という思いから、欲しいときに少しずつ食べる方法を好む猫が多くいます。
【鮮度が高く、温かいものが好き】
もちろん、温度や鮮度の良し悪しは犬にもいえることですが、猫のこだわりは段違いです。食べ切れない獲物は地面に埋めて後で食べることができる犬に対し(腐肉食者)、猫はその都度捕れたて新鮮なフレッシュ肉を口にしてきましたので、獲物の体温に近い35〜40°を好む傾向があります。
このタイプの猫は、水も冷たいものより少し温かいものを好んで飲みますので、浴槽の水を飲もうと足を滑らせて溺れてしまう、といったリスクも高くなります。また、温めることでより“匂い”も立ちますので、食欲不振気味の猫にはフードを温めて給餌することも、とても効果的です。
【噛み砕いて食べるのが好き】
野生の猫は、犬歯を使って肉をひきちぎるために顔を振ります。その名残で、噛み応えのある大きめのフードを好む猫がいますが、難点なのは砕かれたフード屑がばらまかれてしまうのと、顔を振った拍子に歯の隙間からフードが飛び出て、お皿周りを汚してしまうこと。
また、野生経験のある猫は、皿に顔をうずめると周囲の危険が目に入らず無防備になるため、あえて皿の外に出して食べることもあります。
【その他 食べ方の違い】
ロイヤルカナンの研究所によると、猫がドライフードを口に運ぶ方法は4つあるといいます。
①舌上法:舌の上にドライフードの粒をなめるように押し付けてすくい取る方法。
②舌下法:舌の下でドライフードの粒を絡めとるようにして口に入れる方法。
③口唇法:唇を使ってドライフードの粒をくわえて、その後口に入れる方法。
④シャベル法:口唇法と似ていますが、ドライフードに最初に触れる部分が前歯(切歯)となる方法。
ペルシャなどの短頭種は②、細長い頭のシャムなどは①、メイクーンなどの中間的な頭の長さの猫は③や④を好む傾向があるようです。
愛猫がどのタイプなのか、一度観察してみると面白いかもしれませんね。
グルメな猫の秘密に迫ってみましたが、いかがでしたでしょうか。
わたしたちペットシッターは猫にとっての三つ星シェフであり、一流の給仕人でありたいと思います。
シッターが帰ったとき、「またあの人に会いたいニャ〜」と思い出して舌舐めずりしてくれたら、嬉しいですね。
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