ペットシッターのお仕事で、最も重要といっても過言ではないのが『ペットの体調管理』です。
普段通り“元気”や“食欲”があるか、どこか痛がったり気にする様子はないか、ペットの“行動の変化”にも十分気を配りお世話にあたりますが、それでも生き物である以上、具合が優れないことや体調を崩す可能性はゼロではありません。
動物は「いつから具合が悪い、ここが辛い/痛いよ」と言葉で教えてくれるわけではありませんので、普段からつぶさにペットの健康状態を観察し、気になるときは飼主さんや動物病院に連絡を取り、万が一の場合は病院まで連れて行きます。
病原菌が侵入して徐々に体調が悪くなる・・のではなく、ある時を境にどんどん体調を悪化する病気のひとつに「胃捻転」があります。
犬に比べ猫の発症は稀ですが、お腹がパンパンに膨れ、触るとカチカチな状態、吐こうとしているのに吐けない、よだれを大量に垂らす、などの症状が見られたら「胃捻転」が疑われ、最悪死に至るとても危険な病気です。
そんな怖い『胃捻転』とは、いったいどのような病気なのでしょうか?
『胃捻転(いねんてん)』ってどんな病気?
胃捻転とは、何かの拍子に胃がねじれてしまい、胃の入口と出口がふさがってしまう状態のことです。
入口がふさがれば、当然胃の中に食べ物が入りませんので、食欲がなくなります。また、出口がふさがるので、胃の中のものは腸に回らず、内容物が発酵しガスが溜まり、入口も出口も閉ざされた胃をパンパンに圧迫します。
何かの拍子に突然発症し、胃がねじれることからショック状態に陥り、そのまま放置すると数時間のうちに死んでしまうこともあるほど、緊急を要するとても危険な病気です(アメリカではガンに次いで第2位の死因)。
では、「胃がねじれる」とは、どういうことなのでしょうか?
私たち人間の胃は上から下への縦型ですが、4本足の犬にとって、胃は重力に対しほぼ水平についています。そのため、例えばごはんを食べた後、重くなった胃が寝っころがったり体をゆすったりした反動でぐるっと回ってしまい、ちょうどキャンディーの包み紙のように、お腹の中で胃の両端がねじれてしまうことがあります。
膵臓(すいぞう)と胃へ分布する血管と一緒に、胃全体がこのようにねじれてしまうため、循環がストップした胃内には時間とともにガスや胃液が充満し、やがてパンパンに膨れ上がってしまいます。そして膨張した胃は周囲の臓器や血管を圧迫し、うっ血や多臓器不全などを引き起こします。当然心臓にも影響を与えるため、処置が遅れると死んでしまうこともある、大変怖い疾患です。
胃捻転の原因とは?
では、なぜ胃がねじれてしまうのでしょうか?
タオルを想像してみてください。両端を持って真ん中を少しねじっても、ひらひらっと元に戻ります。でもそこに重いものが入っていると、ねじれたままそこで止まって、元には戻りません。
このように、一般的には“飲食後すぐに激しい運動をさせると起きやすい”とされていますが、実はそれ以外にも原因は様々で、全てはっきり解明されているわけではありません。
遺伝的なものも含め、食事で言えば過剰&急激摂取、フードの粒の大きさ、食事の回数、速さ、空気の飲み込み、食器が高い位置にある…etc、その他にも怖がりだったりストレスなども素因とされています(※食餌中のカルシウムとリンのアンバランス、胃下垂、膵臓肥大なども要因)。
タオルをイメージしたように、小さい胃より大きい胃の方が捻転しやすいため、猫よりも犬、小型犬よりも大型犬に多くみられます。
グレート・デーンやボクサー、シェパードやドーベルマンなどの大型犬や超大型犬、コリーやシェルティーなどの胸の深いタイプの犬が比較的発症しやすく、年齢と共に胃を支える靭帯が伸びてくるため、3歳を越えるあたりから注意が必要です。
こんな症状にはご注意!!
食後数時間でお腹が膨れてきて、苦しそうに嘔吐をしはじめます。しかし胃がねじれて詰まっているため、内容物は出てきません。立ち上がったり歩いたりするものの落ち着きが無く、苦しそうなうめき声を上げたりします。
かなり進行した状態でも犬は動き回るので、つい「様子を見よう」と思いがちですが、少しでもお腹が膨れて吐きたくても吐けない様子が見られたら、すぐに動物病院に相談してください。相当痛いはずですので、困った顔を見逃さないようにしましょう。
水をがぶ飲みするタイプのワンちゃんで、過去に一度でも胃捻転を経験したことがあるような犬の場合は、再発しやすいため特に注意が必要です。夏場のお散歩帰りなど、喉がカラカラの状態のときは特に、一気に器からガブガブ飲ませるのではなく、手にとって少しずつ飲ませるなどのケアを心がけましょう。
胃捻転に気をつけたお世話のしかた
一日一食で、一日分の食事を一気に与えている場合は、それだけ胃も膨れ一時的に重くなりますので、胃が捻転しやすくなります。
また、食後すぐの散歩や運動も、外的ショックが加わってグルッとねじれやすくなりますので、要注意。食事は2〜3回に分けて(もちろん可能ならもっと多く分けても、それだけ犬にとって“楽しみ”が増えるので尚良しです)、食後すぐの遊びや運動は避けるようにしましょう。小型犬ならそこまで心配はありませんが、特に大型犬の場合は、食後すぐのお散歩や遊びなどの運動は控えましょう。
基本は、『ごはんは散歩の後』です。とは言え、“食べてからお散歩に行く”という習慣の方もいるかもしれません。食後に散歩に行った方が腸が活性化されて“うんちの出がいい”ということもあるため、忙しい方や、暑い時期であまりお散歩に時間をかけられないような場合は、あえて「食後の散歩」にしているケースもあるでしょう。
しかし、胃捻転のリスクを考慮するなら、そうした“起こりやすい習慣”は改善する必要があります。
もちろんリスクを極力回避したからといって、100%免れるものではありません。
大切なのは、日頃からペットの体調変化に気をつけ、何かあった際には楽観視せず迅速に対応することです。
特に「胃捻転」は放置すると生死に関わる危険な病気ですので、「一気食い」「ガブ飲み」「食後の運動」には十分気をつけましょう。
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